説明
愛媛県の砥部焼は、18世紀に砥石を使った磁器として当時の大洲藩が開発したものです。当地ではそれ以前は陶器を製造していましたが、藩の財政を立て直すため、当時輸入品が中心の高級品だった磁器を開発し、藩の主要産業として成功しました。
特徴は、厚手の生地に淡い呉須で絵付けした素朴なデザインで、特に大きい筆致の唐草模様が有名です。
この飯碗は江戸時代から続く、高台の高い独特な形状をしていますが、おそらく高台の直径を大きくすることで安定させるためだと思われます。江戸時代、淀川などの交通路においてはタイやベトナムのように船売りの屋台があり、当時この碗に持ったご飯を食器ごと販売していました。屋台主は細長い板にお碗を並べたものを片手で持って相手の船の客に器用に差し出して渡すのですが、この茶碗はそのような使い方に向いていました。屋台主は「めしくらわんか、くらわんか(Shall you eat?) 」と呼び声していたので、これを「くらわんか碗」と呼ぶようになりました。
その器は食べた後川に投げ捨てられたので、淀川の川底には大量の茶碗が沈んでおり、後に茶人がそれを拾い上げわび茶に供したという話もあります。
また、この茶碗を製作している岡田陶房さんは、伝統的な形状を継承しつつも実用性を向上させ、旧来の茶碗より軽く持ちやすいように調整されています。模様の「赤波」は、岡田さんが考案したもので、砥部焼に多く用いられている模様を基にしつつも軽快でさわやかな雰囲気です。